AIに心理描写を書かせたら全部「胸が締めつけられた」になった話【紋切り型を抜け出すまでの実験記録】

AIに心理描写を書かせたら全部胸が締めつけられたになった話 紋切り型を抜け出すまでの実験記録 AI創作・小説

AIに小説の心理描写を頼むと、なぜか毎回おなじ表現が返ってきます。

「胸が締めつけられた」「言葉を失った」「何も考えられなかった」。

便利なはずのAIが、いちばん大事な場面でいちばん平凡な言葉を選んでくる。この記事は、その理由を実際に手を動かして探した記録です。

この記事で分かること

  • AIの心理描写がテンプレートっぽくなってしまう原因
  • 同じ場面を3つのプロンプトで書かせた比較結果
  • 紋切り型を抜け出すのに効いた、たった1行の指示

実験の準備:同じ場面を10回書かせてみた

検証に使ったのは、次のような短い場面です。

高校生の主人公が進路希望の紙を提出したあと、親友が別の学校を志望していたと知る場面。

派手な事件は起きません。感情の動きだけで読ませる場面です。

この場面を、条件を変えながら合計10回ほど書かせました。使ったのはClaudeです。

まずは何も指定せず、「この場面の心理描写を書いて」とだけ頼みました。

結果は、10回中7回に「胸が締めつけられた」がそのまま入りました。

残りの3回も「息が詰まった」「言葉が出なかった」で、方向はほとんど同じです。

語彙が少ないわけではありません。AIはもっと珍しい言葉も知っています。それでも同じ場所に着地します。

原因は「感情に名前をつける順番」だった

出力を10本並べて読むと、共通の構造が見えてきました。

AIはまず感情に名前をつけ、そのあとで名前を説明する文を足していたのです。

裏切られたような気持ちになった。胸が締めつけられ、言葉が出なかった。

前半で「裏切られた気持ち」と結論を出し、後半でその言い換えをしています。

感情の名前が先に決まると、そのあとの描写は定番表現に引き寄せられます。

「悲しい」と決めた瞬間に、涙・胸・喉といった手垢のついた部位が呼び出されるわけです。

小説を書き慣れた人は、ここで逆の手順を踏みます。

先に体の動きや視線の向きを書き、感情の名前はあえて出しません。読者が自分で名前をつける余地を残すためです。

つまりAIに必要なのは、語彙を増やす指示ではありませんでした。書く順番を変える指示です。

3つのプロンプトを比べたら、差がはっきり出た

仮説を確かめるため、3種類のプロンプトで同じ場面を書かせました。

A:何も指定しない

この場面の主人公の心理描写を書いてください。

結果は前述のとおりです。「胸が締めつけられた」が高確率で出ます。

B:「豊かに」「詩的に」と頼む

この場面の心理描写を、豊かで詩的な表現で書いてください。

これが意外な失敗でした。表現は長くなりましたが、中身は薄いままです。

「心の奥底に冷たい風が吹き抜けるようだった」といった文が増えました。

きれいですが、誰のどんな場面にも使えてしまいます。抽象度が上がっただけで、具体性は下がりました。

C:感情の名前を禁止する

この場面の心理描写を書いてください。ただし条件があります。悲しい、悔しい、寂しいなど、感情を直接あらわす言葉は一切使わないでください。かわりに、主人公の視線の向き、手の動き、耳に入ってくる音だけで書いてください。

ここで出力が変わりました。

主人公が紙の端を折っては伸ばす動作、廊下の蛍光灯が一本だけ切れかけている音、親友の声が途中から聞こえなくなる感覚。

感情の名前はひとつも出てきません。それでも何を感じているかは伝わります。

禁止という制約が、AIを定番表現の外へ押し出してくれました。

実際にやってみて分かったこと

マスコットキャラクターしおり


ここからは、しおりが実際に試してみた話をするね。

Cのプロンプトがうまくいったから、しおりは調子に乗ったんだ。「もっと厳しくすれば、もっと良くなるはず」って。

それで、禁止する言葉をどんどん増やしてみたよ。感情語に加えて、「胸」「息」「涙」「心」も全部禁止。

そうしたら、返ってきた文章がこうなったんだ。

彼は右手の指を三度動かし、視線を床のタイルの継ぎ目へ移した。左の靴底が半歩分だけ後ろへ下がった。

マスコットキャラクターしおり


……これ、心理描写じゃなくて観察記録だよね。しおりも読み返して、思わず照れてしまった。

制約を強くしすぎると、AIは感情を伝えることをあきらめて、動作の報告だけに逃げるみたい。

ちょうどいい線はどこだろう、と何度か試して分かったのが次のことだよ。

  • 禁止するのは感情を直接あらわす言葉だけにする
  • 体の部位そのものは禁止しない(「胸」は使ってもいい)
  • かわりに「どの感覚で書くか」を1つだけ指定する(視線/音/手ざわりなど)

禁止を1つ、指定を1つ。この組み合わせがいちばん安定したよ。

あと、もうひとつ意外だったこと。同じプロンプトでも、場面の前に主人公の日常を3行だけ足すと、描写の具体性が上がったんだ。

「この子はいつも筆箱のファスナーを閉め忘れる」といった、どうでもいい情報でいい。AIはその小道具を心理描写に使ってくれる。

感情を深く書かせたいときほど、感情と関係ない情報を渡す。しおりにとっては、これがいちばんの発見だったよ。

まとめ

AIの心理描写がテンプレ化する問題は、語彙ではなく手順の問題でした。

  • AIは感情に名前をつけてから説明するため、定番表現に着地しやすい
  • 「豊かに」「詩的に」と頼むと、抽象的になるだけで具体性は下がる
  • 感情語を1つ禁止し、感覚を1つ指定すると、描写が具体的になる

まずは手元の原稿から、心理描写が止まっている場面を1つ選んでみてください。そこにCのプロンプトを当ててみると、違いがすぐ分かります。

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